Mの部屋
第9回 レーザーの安定性8
レーザーは物理の塊なので物理を理解しないと難しいですが、ここではそこな難しいレーザーの開発をのぞき見るコーナーです。
レーザー加工を行うためには光源元となるレーザー発振器の安定性を高める必要があります。
今回は長期に安定させるための環境についてお届けします。

■長期に安定させるために

レーザー共振器をせっかく精密に調整しても、温度変化や環境変化に留意していないとあっというまに“ホールインワン”が出来なくなる状態になり、所望のスペックのレーザービームが出力できなくなってしまいます。では共振器の安定性を阻害してしまうものはいったい何なのかを考えてみましょう。やはり、輸送中の振動、周囲の温度変化による機械的な変動が一番懸念されます。工場を出荷するまでは完璧なまでに調整されていたはずなのに設置場所で発振させてみると調整が狂っています。航空便による輸送中は温度変化が激しく調整が狂いやすい要因の一つです。またトラックなどによる道路輸送もエアサス車でないと、かなり振動を受け調整が狂ってしまいます。こういった点では委託する輸送業者の選定も重要です。 次に見逃せないのが共振器の容器内部の汚染による光学部品表面の汚れです。なにしろ共振器は“いつでもホールインワン”状態にしなければなりません。従って共振器の調整機構は非常に精密に製作するのが恒で、微妙に動く機械を強固に固定するという相反する要求を満たすように部品の保持機構には工夫が必要です。また、温度に敏感な部品にペルチェ素子などを取り付けた場合、ペルチェ素子の吐き出す熱量による部品内部の温度勾配、稼動時のサイクルの処理を怠ると熱膨張と収縮がネジ止めしたはずの部品を尺取虫のように動かしてしまうこともあります。

さらに共振器の容器内部の汚染は塵や埃、湿気は言うに及ばず、長期の安定性のためにはあらゆる“匂い“も汚染のひとつと考えられます。とくに周波数変換をした可視-紫外のレーザー装置や短パルスを発生させる装置の場合、影響が顕著であったりします。電気のケーブル被覆、部品固定用に用いる接着剤、これらは人間が嗅いでも特定の匂いがします。この匂いの成分は高分子のガスであったりします。このような物質を共振器内部に持ち込む場合は留意が必要です。また見逃してならないのは金属も匂いを出すというところです。長期にわたって安定なレーザー装置のためには共振器の容器を密閉型にしておいて、乾燥した清浄な不活性ガスを封入しただけでは実は不十分です。匂いとしての汚染物質を吸着するなんらかの機構を共振器内部に持たせることが必要となってきます。いわいる元からたたなきゃだめって言うやつですね。そこまで気を使って組み立てられたレーザーの安定性は非常に高く仕上がっています。



トラックなどによる輸送は振動に十分注意



接着剤からはガスが発生するのが当然


少し難しい話をしてしまうこともありますがお許し下さい。