Mの部屋
第4回 レーザーの安定性3
レーザーは物理の塊なので物理を理解しないと難しいですが、ここではそこな難しいレーザーの開発をのぞき見るコーナーです。
レーザー加工を行うためには光源元となるレーザー発振器の安定性を高める必要があります。
今回は熱回避のための励起方式についてお届けします。

■熱回避のための励起方式

サイドポンプの変り種として、穴あきロッド、ジグザグスラブが挙げられるでしょう。効率的な冷却のためには、レーザー媒体の内部から熱が出てくる経路がなるべく短いほうが、単位体積あたりに大きなパワーを蓄えられるという性質を最大限に利用しようとする試みです。穴あきロッドの場合、励起用のフラッシュランプをガラスやYAGのロッドの中心に開けた穴に通して、内側から励起する方法です。ジグザ グスラブは1980年代に一部で流行した方式ですが、媒体の入り口を斜めにブリュースタ角に切り落とし、光軸が平板の媒体内部を全反射してジグザグに進行します。媒体内部の熱分布を往復することで熱レンズ効果がキャンセルされ、媒体をなるべく薄い平板にすると単位体積あたりに投入できるパワーが稼げ、大パワーが実現できるというものでした。

フラッシュ光励起で割れてしまうレーザーガラスを「あらかじめ砕いておいて透明容器内部に入れて同一屈折率の液体で冷却すればそれ以上割れないだろう」という、今となっては笑えるアイディアが人口に膾炙した時代では比較的真面目な方式でしたが、残念ながらどちらの方式も実用化には至りませんでした。穴あきロッドは発振横モードが実用に供するように加工する術が無く、ジグザグスラブの場合、理想的な励起のためには効率をかなり犠牲にする必要があり、全効率に余裕のあるシステムにしか整合性がありませんでした。実用化研究の大部分が、軍事予算などの恩恵が考えられるグループによってなされていたため、効率は二の次であったためであると言えなくもありません。

ランプ励起に限って言えばジグザグスラブの効率は芳しくありませんでしたが、過渡的な性能ではロッド媒体の方式を凌駕するものもあったようです。シンプルなロッド(円筒形)媒体とジグザグスラブとの対比はまるで、自動車エンジンのシリンダー型レシプロエンジンとロータリーエンジンとの対比を見るような思いがします(マツダロータリーエンジンファンのみなさん失礼。)効率(エンジンで言えば、燃費)と耐久性にうらうちされた安定性、サービス性は実用的なレーザ装置の要となります。したがって、励起光源がランプからレーザダイオードに変わってもロッド媒体、サイドポンプの天下はしばらく続くと考えて間違いないでしょう。



YAGロッドは温度分布が起きる



ジグザグに進むスラブ方式


少し難しい話をしてしまうこともありますがお許し下さい。